働けないアリの休日


1994.2.3(thu)-2.6(sun)  新宿スペース107


      CAST                     STAFF

田之倉 京作    岡本 徳彦                 作・演出     前田 真之輔                             
 
立花 真喜子    山口 ちえみ          演出助手     大須賀 あつし

小田村 太一郎   福島 龍治           音  響     サウンドキャラウェイ

小田村 誠一    大須賀 淳           照  明     福田 恒子

左門寺 陽子    森田 美代           舞台監督     比嘉 正哉

川  津      勝俣 喜章                    望月 剛

立川 秀子     大西 智子                    川井田 照美

男  A      杉江 広志           スライド     坂本 陽子

男  B      山岸 ワタル          スライド操作   柏木 祐子

男  C      横山 秀幸           宣伝美術     板橋ロマン

女  A      辻川 幸代           制 作      プチケカ

女  B        小島 実和子


 


 

         ごあいさつ

 

 『楽しみ』について、書こうと思う。

うちの劇団員の中に、第1回の旗揚げの時から在籍している男がいる。

しかし、芝居の方は、いつまでたってもおヘタである。なかなか化けてくれない。

それなのに、どういうわけか毎回重要なポジションを担う役になってしまう。当然、

発展途上の彼が、重要な役を担うのだから、稽古は必然的に厳しくなる。

それが1ケ月以上続くわけだから、彼にとっては、まさに、生き地獄である。

毎回彼は、思い詰めた表情で、稽古場にやって来ては、稽古が終わると、1週間下痢が続

いてるかのような表情で帰っていく。体重も日に日に減っていく。

ひどい時など、拒食症に毛がはえたような状態までいき、真剣に心配した。

 更にいけないことに、彼には、ストレスを解消するはけ口や楽しみが、あまりないよう

だった。家に帰っても、台本とのにらめっこばかりだという。

その時は、さすがの私も「気分転換に、バッティングセンターにでも行って来い」と、自

分の短いものさしから繰り出される、はけ口についてのアドバイスを、のたまわっていた

ことを思い出す。

が、しかしだ。

今回はどうしたと云うのだ。明日は、いよいよ初日だというのに、彼は、体重が減るどこ

ろか、太っているではないか。今回も彼にとって、稽古は厳しいものだったハズだ。

それがどういうことだ。あのブヨブヨ具合は。振り返ってみると、今回の彼は、笑顔で

稽古場にやって来ては、稽古が終わると、1週間便秘が続いているかのような腹で帰って

行ってた。一体この豹変ぶりは何だというのだ。

私は、彼に尋ねてみた。

すると彼は『楽しみ』ができたのだという。私は、どんな楽しみなのか聞いてみた。彼い

わく、その楽しみとは、夜な夜な中古車センターに行っては、フォルクスワーゲンの置い

てあるショウウィンドウを覗き込むことだという。雨の中ショウウィンドウにへばりつい

ては、中のトランペットを羨望の眼差しで見つめる黒人ボーヤの如く・・・・。

彼は、買うあてもない、そのワーゲンに乗って、全国を旅している自分を想像しているだ

けで、明日への勇気が湧いてくるのだという。

 そんなことが彼にとっては、この上ない楽しみなのだという。

その時私は、思わず彼を抱きしめていた。

 

前田 真之輔

 




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